『ヒラヒラヒヒル』を読了!架空の大正時代を舞台に独特な病気をテーマにした物語で現代にも通じる大切な考え方が描かれていると思う

『ヒラヒラヒヒル」タイトル画面

ヒラヒラヒヒル』を読了しました。

これは多くの人に読んで欲しい作品だと思いました。物語は「ひひる」と呼ばれる病気が蔓延している架空の大正時代を舞台にしています。

仮死状態になった後に蘇る人達のことを作中では「ひひる」と呼ばれ彼らとそしてそうでない人たちとの生活、葛藤を描く心に迫ってくる物語です。

誰一人として悪者など出てきません。現実の世界でも通じる等身大の人達が描かれます。

「ひひる」は作中では「風爛症」と呼ばれ、れっきとした医学的な疾病として扱われております。

蘇った人間は、知性や記憶・認識力が衰え、コミュニケーションが困難となるばかりか、肉体も代謝が衰え、腐敗していく。そういう病です。

制作者の意図は私には分かりません。なのでこれはあくまで私の個人的な捉え方ですが…これはメタとしての「認知症」だと思いました。腐敗と言う側面はさすがに創作として要素ではありますが作中で描かれる彼ら「ひひる」はそのものだと思いました。

また病気として考えた時に、誰でも患う可能性があり原因は明確でなく根本的な治療方法はないけれど進行を遅らせたりすることは可能という部分もまさにそうだと感じます。

ですがこの作品の最大の肝はそういう人達が社会に、身近にいたとき人はどうなって行くのかを克明に描いている点です。その人を大切に思っていれば思っているほど変わっていく現実に耐えられず狂っていくその描写は凄まじいものがあります。

ノベルゲームとして

まず単純にノベルゲームとしてはとてもオーソドックスです。文章の表現が文学的で小説を読むかのように読めます。落ち着いた文章で近年だと珍しいかもしれません。

『ヒラヒラヒヒル』挿絵1

イラストは流行りの絵柄とは程遠いですが作品には完璧にマッチしており素晴らしいです。

選択肢はあり選択によって物語が分岐しますが難しいものではなくほぼ一本道のようなものです。実績はなしです。

むしろ選ばなかった選択肢の展開も「ひひる」との関わりの結果を示しており非常に考えさせられます。

シナリオのボリュームとしては10~12時間もあれば読み切れます。

感想

終始、丁寧な文章で主人公二人の心情がきめ細やかに描かれ時代背景や「ひひる」についてそして周囲の環境や自身がどう思っているか等とても分かりやすいです。

いわゆるダブル主人公というもので、千種正光、天間武雄のどちらも読んでいて好感度高くなります。両人共に聖人としか言いようがありません。

この二人はそれぞれ異なる立場から「ひひる」と出会い関わっていくことになります。

二人が出会い協力して何かをするみたいな展開はありません。ある出来事で少しだけ邂逅することになるくらいです。

それぞれの問題はそれぞれの物語の中で解決を目指します。

千種正光は医者としてひひるの治療と調査に携わり、物語の後半では自身が「ひひる」を発症します。

天間武雄は下宿先の思いを寄せている少女が「ひひる」を発症します。

個人的には天間武雄は辛い展開が続くなと思いました。天間武雄は「ひひる」に関わるという過程で学生という身分ゆえに力が及ばないことが多いです。力の及ばなさ故にかなり絶望的な展開を迎えてしまいます。

『ヒラヒラヒヒル』挿絵2

『ヒラヒラヒヒル』挿絵3

それだけに彼の終盤の決断と結末がこの物語の最大の醍醐味かと思います。

興味がわいた方はこのゲームをぜひ手に取って確かめて欲しいです。